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序章 王国の魔女


 ――ローズティア王国には、王を選ぶ魔女の伝説がある。
 次代の王を決めるのは、今の国王でも宰相でも大臣でもなく、一人の魔女なのだと。
 何百年もの間、年を取らずに生きているという不老不死の魔女に会うことが出来た王子か姫君だけが、ローズティアの玉座を継ぐことが出来るのだと。
 そうして、今まで幾人もの王子や姫君が魔女に選ばれ、ローズティアの王冠を手にしたのだと。
 その魔女に会うことが出来るのは、次代の王位を継ぐ資格がある者だけ。他の者がどれほど願おうとも、魔女に会うことは叶わない。
 それゆえに、人々は魔女のことを“王冠の魔女”とそう呼んだ。
 ――王冠を望む者よ、魔女を探せ。
 ――どんな宝石よりも美しく、どんな花よりも麗しき、王冠の魔女を求めよ。
 ――そなたが真に王となるべき者ならば、やがて“王冠の魔女”に出会うだろう。
 そうして、伝説は語り継がれる。親から子へ。子から孫へ。
 語る声が途切れることもなく。ローズティアの“王冠の魔女”の伝説は語られる。
 ローズティアのお城の奥深くには、美しい魔女が住んでいて、彼女に選ばれた王の子だけが玉座を継ぐことが出来るのだと。
 この王国の民ならば、誰もが知っている。王を選ぶという魔女の伝説。
 何百年もの間、その“王冠の魔女”の伝説は真実のものとして、人々に語られてきた。だが、その“王冠の魔女”の名を語る誰もが、彼女のことを何一つ知り得ることはない。
 どんな容姿をしているのか。
 どんな声をしているのか。
 美しいのか、醜いのか。
 本当に不老不死の魔女なのか。
 なぜ次代の王を選ぶことを、許されているのか――
 ローズティアの城の奥深くに住むという“王冠の魔女”宰相や王妃と呼ばれる者たちでさえも、彼女に会うことは叶わない。
 “王冠の魔女”に出会い……そして、選ばれるのはローズティアの次代の王となるべき者だけ。
 魔女に選ばれた者だけが、王位に就くことが出来るのだという。
 それはこの六百年、変わることがない。
 ――忘れるなかれ。ローズティアの玉座は、魔女によって決められる。
 しかし、伝説を語る者が真実を知ることは決してない。
 “王冠の魔女”が何を想って、次代の王を選んでいるのか。
 不老不死といわれる魔女がなにゆえに、ローズティアの城の奥深くに住んでいるのか。
 どうして、“王冠の魔女”となったのか。
 真実を語るべき王たちは口を閉ざし、“王冠の魔女”は姿を表さず、ローズティアの民はただ城を仰ぎ見ることしか出来ない。
 誰も真実を知らず、また語ることもない。
 そうして、今日も父から子へ。ローズティアの伝説が語られる。王様の住む城の奥深くには“王冠の魔女”が住むという――と。


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