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七章 眠りの王子 7


 ミカエルは来るたびに思う。
 もう、此処に来てはいけない、と。
 ああ、それなのに、それなのに、ミカエルは迷いつつも、今日もその場所に、足を運んでしまうのだ。
 決して、消え去ることのない罪悪感と、リリィに会いたいという、それだけのために。
 もう一日だけ、もう一日だけだと言い訳をしながら、その欲求は尽きることなく、少年の心から湧き出てくる。
 既に、顔なじみになりつつある宿屋を訪れると、宿屋の経営者である老夫婦が、「いらっしゃい」と、客商売らしい愛想の良い声を掛けてくれた。
 ミカエルは、へらり、と力なく笑うと、「お邪魔します」と、リリィの宿泊する宿屋へと入る。
 ほどなく、どん、と彼に抱きついてくる、小さな影があった。
「えへへ、待ちきれなくて来ちゃった」
 胸にすっぽりと収まる、小さな身体。
 蜜色の髪に、空色のリボンを結んだ少女が、太陽みたいに笑って、ミカエルの腕の中に飛び込んできた。
 少年を見上げてくる、薄青の瞳は喜びで、きらきらと輝いている。
 その純粋で、無垢な表情に、ミカエルは懐かしさと同時に、微かな胸の痛みを覚えた。
 リリィは出逢った時から、ちっとも変わっていない。疑うことを知らず、汚れなく、無垢なままだ。
 変わったのは、変わってしまったのはきっと、ミカエルの方だった。
 リリィが、自分を歓迎してくれればくれるほど、嬉しく、そして、自分の罪を思い出して、苦しくなる。
 別れた日、店の盗まれた怒りで、棒を振り回す大人たちの前に、無力なリリィを置き去りにしたのは、他でもないミカエルだ。
 可哀想な、かわいそうな、リリィ。
 少し頭が足りないばっかりに、「必ず助けに来る」という、ミカエルたちの言葉を信じて、ずっとずっと待っていた。
 大人たちの怒りを一人で受けて、殴られ、蹴られ、強い雨に打たれながら、それでも、仲間の孤児たちを待っていたのだ。兄同然であるミカエルが、自分を助けに戻ってくるのを、ずっと。
 おそるおそる、孤児仲間の輪を抜け出したミカエルが、その場に戻った時、既にリリィはそこにいなかった。はっきり言えば、ミカエルが見殺しにしたも同然だ。
 言い訳をする気はない。あれほど兄と慕ってくれたというのに、ミカエルは何も出来ないどころか、疑うことを知らない彼女を騙したのだ。もしも、ミカエルがリリィの立場だったのなら、きっと恨むことだろう。なのに、それなのに――
「ミカエル、どうしたの?なにか、考えごと?」
 少し舌っ足らずな、甘い声。
 傍にあって当たり前だったはずのそれが、掌から零れ落ちた時の絶望を、ミカエルは今でも生々しく思い出せる。
 なにせ、いまでもあの時のことを、悪夢に見るくらいだ。
「何でもないよ」
 ミカエルは力なく首を横に振ると、ねえ、と続ける。
「ねえ、裏切り者の僕は、どうしたら、君に許してもらえるんだろう?リリィ」
 少年の問い掛けに、少女は蜜色の髪を揺らし、あどけなく小首を傾げた。
「許す……?」
「うん」
「ミカエル、何か悪いことしたの?」
 心底、不思議そうな声音で、リリィは尋ねてくる。慰めではなく、本気でそう思っているようだった。
 辛そうに顔を歪めたミカエルの、淡い金髪の頭に、背伸びをした少女の、小さな掌が触れて、優しく頭を撫でた。
「あのね、ディーが教えてくれたの。悪いことをしたときは、ごめんなさい、っていえば、それでいいんだって。それだけで、気持ちがつたわるんだって」
 一生懸命、たどたどしい口調で続けられるそれ。
 だいじょうぶだよ。誰も、ミカエルのことを怒ってなんかいないよ。
 ミカエルは俯いて、自分の手よりもずっと小さな、その掌のぬくもりに、すがりたい心境にかられた。
 女とは偉大だ。自分より、ずっと小さく、弱い存在なのに、その小さな身体に、海より深い包容力を秘めている。
 何も返せなかったのに、与えられた好意に、真逆のものを返してしまったのに、リリィは未だミカエルを大切な人として扱ってくれる。それが、どんなに特別なことであるのか、わからない彼ではなかった。
 よいこ、よいこ、頭を撫でられるなんて、母が死んでしまって以来、何年ぶりだろうか。それは、不思議と恥ずかしくはなかった。
「ありがとう……」
 震える声を抑えつつ、礼を口にすると、ミカエルは両手でリリィの手を握り締めた。
「リリィ、今日は大切な話があるんだ」
「……大切なはなし?」
 ミカエルはうなずくと、
「僕と一緒に、エドウィン公爵家のお屋敷で、働く気はない?」
と、真摯な声で続けた。
 リリィに持ちかけた話、ミカエルは本気だった。しばらく前から、考えていたことだ。
 この宿屋にいる彼女を見る限り、血色もよく、お腹いっぱいに食べられて、幸せに過ごしているようだが、いつまでも、こんな暮らしを続けることは、出来ないだろう。
 それに、リリィがディーと慕う、あの男、どうもきな臭い。
 一目見ただけでも、堅気の世界の住人ではない、異様な風体と、闇の世界に生きる者の、殺伐とした気配が感じられた。そんな危ない男と、大切なリリィを一緒に暮らさせておけば、いつか危険なことに、巻き込まれるかもしれない。否、すでに巻き込まれているかもしれないのだ。
 勝手な言い分だが、一刻も早く、あの男から引き剥がした方がいいと、ミカエルは思う。
 エドウィン公爵家に連れて行ったところで、どうするかは決めてはいないが、旦那様に頼み込めば、下働きのひとり位ならば、屋敷に置いてもらえるに違いない。要領の悪いリリィは苦労するだろうが、全力で助けると誓っている。
 そうだ。あの毒舌家だが、根が優しい旦那様なら、無理に追い払ったりしないだろう。
「最初は寂しいし、辛いかもしれないけど、リリィならきっと、早く屋敷の生活にも慣れるし、みんなから可愛がられると思うよ。だから、一緒に行こう?」
 ミカエルはなんとかリリィに頷いてもらおうと、必死に言葉を重ねた。それが、彼女にとって一番、良いことなのだと信じて。
 償いかもしれない。ただの自己満足かもしれない。それでも。
「お屋敷には、立派な旦那様と、奥様がいらっしゃるんだ。とても優しいお方だよ、リリィもきっと好きになる。それに、屋敷には大勢の使用人仲間がいてね、みんな家族みたいなものなんだ。執事のスティーブさんは厳しいけど、色んなことを教えてくれるし、女中頭のソフィーさんは面倒見が良くて、ときどき味見もさせてくれる……メリッサはちょっとお転婆だけど、気の良い女の子なんだ。それで……」
 エドウィン公爵家は、とても良い職場だ。孤児として、帰る家のないミカエルにとっては、唯一、ただいま、と言って帰れる場所である。おかえり、と言ってくれる人がいるのが、どんなに幸せなことなのか、わかっているつもりだ。
 だから、リリィも、きっと。
「駄目かな?」
 ミカエルの必死さに、リリィも少し心を動かされているようだった。でも、「駄目だよ」と少女はいやいやと首を横に振る。
「どうして?」
 納得のいかないミカエルに、だって、とリリィは続けた。
「その、おうちにはディーもいっしょに行けるの?」
 ミカエルは、口ごもる。
 年端もいかない少女ならともかく、あの怪しく、危険な匂いがする男を、旦那様が屋敷に迎え入れてくれるとは、彼自身、確約できなかった。
「それは……」
「ディーと一緒なら、ミカエルと行ってもいいの。でも、リリィだけじゃ駄目なの。だって、そうしたら、」
「……そうしたら?」
「ディーが、一人ぼっちになっちゃうもの」
 くしゃ、とリリィは顔を歪めて、微笑う。
「ミカエルはお屋敷に、大切な人がたくさんいるんでしょう。でも、ディーには、リリィしかいないの。大切な家族なの。だから、だめ」
「こんなに頼んでも?」
 未練がましいミカエルのそれに、リリィは何の躊躇もなく、うなずいた。
「うん!」
「……わかったよ。変なことを言って、ごめん」
 ミカエルはため息を吐いて、頭をかくと、「今日は、もう帰るよ」と席を立った。少し頭を冷やした方がいいようだ。
 別れ別れだった数年間、リリィは成長していなかったわけではない。きちんと大切なひとと、生きる場所を手にしていたのだ。それに気づけないのは、傲慢であろう。
 彼女に背を向け、立ち去ろうとしたミカエルは一度、後ろを振り返った。
「また来てもいい?リリィ」
「うん。いつか、ミカエルのおうちにも遊びに行かせてね」
「……ああ。いつか必ず、紹介する。旦那様も皆、善い人たちだよ。リリィも好きになると思う」
 ようやく、ミカエルの顔にも、憂いのない笑みが浮かぶ。
 彼が立ち去ろうと、廊下に出た時、行く手に大きな黒いものが立ちふさがった。
 部屋の主が、外出より戻ってきたのだろう。
 全身に警戒心をみなぎらせて、ミカエルは、自分よりも頭二つ分ほど高い、その男を見据えた。
 黒いフードに身を包んだ男は、さながら死神のようだった。
 蛇皮の眼帯、長めの前髪から覗く黄金の瞳が、爬虫類のようで気味が悪い。
「おいっ」
 無言で部屋に入ろうとする男を、ミカエルは呼び止めた。
「何だ?坊主」
 男は、煩わしげに振り返った。
 その眼光の強さに、思わず怯みそうになりつつも、少年は必死に虚勢を張った。
「リリィを不幸にしたら、絶対に許さないからな。アンタがどんなに危ない輩でも、リリィはアンタを信じているんだ」
 一瞬、硝子玉のようだった黄金の瞳に、激しい感情がよぎったようだった。
 本能的に、逆鱗に触れたのだとわかる。
 男が手を伸ばし、乱暴にミカエルの胸ぐらをつかみ上げる。
 少年の身体が宙に浮いた。
「……うわっ、何するん……」
 ミカエルは最後まで言葉を発することは出来ず、勢いのまま、床に叩きつけられた。
「げぼ、げほっ、うええ」
 身体を折り曲げて、ミカエルは激しく咳き込んだ。
 胃の中のものが逆流し、床に嘔吐する。
 そんな少年の醜態を、冷たく見下ろしながら、男は絶対零度の声で命じた。
「リリィを一度、見捨てたお前が、偉そうに俺たちの絆を語るな。忘れるな、次に同じことを口にしたら、必ず殺す」
 男の凍てついた眼差しから、それは脅しではなく、本気なのだとわかった。
「ちっ……」
 ミカエルはツバを飛ばすと、痛む全身を無理やりに起こして、よたよたと覚束無い足取りで逃げ出した。
 みっともなく、これ以上なく惨めだったが、それしか、今の彼に出来ることはない。
 宿屋を逃げて、男の視線を感じなくなってから、ミカエルは地面に大の字になると「畜生……っ」と呟いた。
「僕に、一体、どうしろっていうんだよ」
 リリィを見殺しにしたあの時みたいに、自分は何も成長していなくて、誰も救えないままなのか。
 その問いに答えてくれるものは、残念ながら、何処にもいなかった。


 ここ数日、王宮に詰めていたルーファスだが、一度、着替えを取りに、エドウィン公爵家へと馬車を走らせた。
 アレン王太子殿下が、いまだ目覚めぬ今、主だった政務は、ほぼルーファスが片付けているといってもいい。
 宰相ラザールは不気味な沈黙を守り、国王陛下の見舞いに、足繁く通っているという専らの噂だ。
 何か企んでいるのは予想がついても、確たる証拠もなしに手を出すことはできかねる。
「お帰りなさいませ、旦那様。何か軽いお食事を、お持ちいたしましょうか?」
 主人を出迎えに出てきた老執事に、ルーファスは「いや、いい」と手を振った。
「それより、アレはどうしている?変わりはないか?」
「奥方様でございますね」
 スティーブは、心得たようにうなずいた。
「でしたら、中庭の方においでです。今日は、ご体調もよろしいようで、昼餉も沢山召し上がってくださったと、料理長も殊のほか喜んでおりおました」
 セラのことを語る、執事の目にはあたたかな愛情がよぎる。
 いつしか、ルーファスはそれを自然なものとして、受け入れていた。
 セラは、不思議な女だ。
 絶世の美女というわけでも、秀でた能力の持ち主というわけでもないのに、ふと気がつけば、エドウィン公爵家の人々の心の傷を癒し、凍てついていた屋敷の空気を、柔らかな微笑みでとかしていった。
 認めるより他にはあるまい。そうして、ルーファスにとって、唯一無二の女となったのだ。
「そうか、少し様子を見てくる」
「旦那様、お待ちを」
 すぐさま中庭に行こうとした、ルーファスの背中を、ぱたぱたと靴の音を響かせて、走り寄ってきたソフィーが呼び止める。
「中庭はすこし肌寒いですからね、この上掛けを奥方様にお持ちになってくださいまし」
「わかった」
 葡萄色のそれを、ルーファスは受け取る。
 仕える主人に頼みごとが出来るほど、この屋敷の空気は、あたたかなものに変わっていったのだ、と感じながら。
 
 秋の花が枯れた中庭は、枯葉色の植物ばかりで、やや寂しげな装いだ。
 先代の当主も、現在の当主であるルーファスも、花には無頓着であったが、腕の良い庭師を雇っているおかげで、中庭の植物たちは、春から秋にかけて、美しく花開く。
 今は来るべき冬に向けて、土の底で眠りについていようとも、春にはまたあでやかな花を咲かせるに違いない。
 職務に追われ、ろくに花を楽しむ余裕もないルーファスとは異なり、セラは花を好み、中庭にも頻繁に足を向けては、庭師と会話し、時に手ずから植物の水遣りなどをしているようであった。
 ルーファスの書斎に、鉢植えを持ち込んでは、ああだこうだと熱心に語るのが常だった。
 必要なものしか置かれていない、公爵の書斎に、赤や黄色のチューリップは、どうにも不似合いだったが、セラだけは満足げであった。
 ……文句をつけるほどでもないので、好きにさせておいたが。
 彼女はきっと、あたたかいもの、色あざやかなもの、美しいもので、空虚で凍てついた彼の世界を、満たそうとしていたのだろう。それは、暗闇にさす、光にも似ていた。
「……歌っておくれ、白鳩よ。私の代わりに、あの人に愛を伝えておくれ……」
「守っておくれ、蔓薔薇よ。私の代わりに、その棘で優しい人を守っておくれ……」
「伝えておくれ、我が剣よ。我が愛しき人に、永遠の想いを……」
 歌が聞こえた。
 うまいとはいえぬが、透明で、澄んだ歌声。
 それは、ルーファスにとっては、よく聞き覚えのあるそれだった。
「セラ……?」
 中庭の木々をかきわける。
 声は変わらず、響いていた。
「伝えておくれ――」
 その時、信じられない光景に、ルーファスは目を見張った。
 枯れたはずの庭に、花びらが舞っていた。
 白や薄紅、黄色、咲いているはずもない薔薇の花びらが。
 風に舞うそれは、白い羽のようである。
 だが、一度、瞬いたのち、それは幻のように消え失せた。
 亜麻色の髪が、風に吹かれて揺れている。
 若草色のドレスを纏った、小さな背中が、こちらを振り返った。
 深く澄んだ、翡翠の瞳が彼を映す。
 おかえりなさい、と彼女は微笑んだ。
「――ただいま」
 歌っているところを見られたセラは、少し気恥かしげに、頬を薔薇色に染めた。
「ねえ、ルーファス。覚えている?」
「何をだ?」
「王宮で出逢った時も、あたしはこうして歌っていたわね。其処に、貴方が現れたの、あの時と同じ」
 夢見るように、亜麻色の髪の少女は目を閉じてみせた。
「驚いたわ、王子様みたいに格好の良い男の人が急に現れて、あたしの旦那様だっていうのだもの。驚いて、驚いて、逃げ出してしまったの……」
 ルーファスは黙って、セラの語りに耳を傾けていた。
「でも、お屋敷の皆に親切にしてもらって、ルーファスが優しい人だって知って、好きになったの。でも、好きになればなるほど、貴方を失うことが怖くなった。ラーグの忠告が、いつか現実になる気がして、死ぬより怖かった。だから、貴方を誰よりも傷つけるのがわかっていて、卑怯にもまた逃げ出したの」
 でも、とセラは幸せそうに、胸に手をあてた。
「ルーファスは、あたしのことを許して、迎えに来てくれたでしょう?ほんとは、とても嬉しかったの。叫びたいくらい」
「しあわせだった。すごくすごく幸せだった。夢みたいに」
「セラ……」
 ルーファスは無意識のうちに、妻へと手を伸ばした。
 そうしなければ、また彼女が何処かへ行ってしまうのではないかと、不安で。
 けれど、そうはならなかった。
「前にラーグが言っていたでしょう。あたしは誰かの身代わりとして、死ぬためだけに生まれてきたんだって。それを知った時から、ずっと苦しくて苦しくて仕方がなかった。あたしは、何の為に生きているんだろう、って」
「でも、ルーファス、貴方に出逢えた。貴方を愛した」
「それだけでも、あたしが生きる意味はあった。夢よりもずっと、幸せだった」
 しあわせだという、セラの儚い微笑みに、ルーファスは胸を締めつけられる。
 それ程までに幸せならば、甘えてしまえばいいではないか。セラが心から望むならば、地位も財産も、捨ててやってもいい。そうして、二人きり、誰も知らない国で暮らすのも、きっと悪くないだろう。
 夢だと……?醒めない夢なら夢で、さほど悪くない。
 でも、ルーファスの愛した女は、残酷な真実を、彼に突きつける。
「ねえ、だからもう、幸せな夢は終わりにしましょう?」
 セラは笑顔で、安寧の終わりを告げた。
「貴方のおかげで、呪われた王女・セラフィーネは幸せになった……だけれど、あたしは貴方と出逢った時から、解呪の魔女なの。英雄王の犯した罪と、凶眼の魔女の呪いと向き合わなきゃいけない」
 永久に醒めぬ夢を望みながら、それを口にするセラの表情は、何処か清々しいものだった。弱く脆く、されど強く、譲れぬ芯も持っている少女の本質が、ようやく表に出たようだ。
「だから、教えて。いま、王宮で何が起こっているのか?それはきっと、あたしにも関係があることだから、見て見ぬふりは出来ない」
「ほんとうに……お前はそれで良いのか?セラ」
 聞いてしまえば、逃げられないぞ、とルーファスは念を押す。
「わかっているわ。それでも、聞きたいの」
 ルーファスは、深いため息をつく。
「貴女は、いつも頑固だな。出逢った時から、そうだった」
「そう言う貴方も、相当、頑固だと思うけど」
「ああ、知っている。似た者夫婦ということだ」
 ルーファスは珍しく、かすかに笑んで、そっとセラの肩を抱き寄せた。


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