「これで、城内の人間は全員、王城から出たはず……」
そう呟いて、イヴァンは部屋の扉を閉めた。
革命軍に一切の抵抗をしないと決めてから、イヴァンは自ら王城の人々に、一刻も早く城を捨てて逃げるように説得して回った。
直に革命軍が王城に攻め込んでくれば、城内の者たちは皆、捕らえられ投獄されるか、あるいは憎むべき国王に味方した重罪人として処刑されることになるだろう。
イヴァンは、それを望まない。
滅びの運命に、ただ王に仕えていたというだけで、多くの人々を巻き添えにする必要はないと思った。
臣下たちの多くは、王である彼の説得を聞き入れて、王城を去った。
それ以外で城に残っている者たちは、年若い兵士や老人……あるいは馬番や料理人など城に仕えていたということ以外、何の罪もない者たちだ。
そのような者たちが、革命で犠牲になることは、イヴァンにとって受け入れ難いことだった。だから、イヴァンは疲れて倒れそうな体を引きずって、城内の者たちを自ら説得して回ったのである。
本来なら、臣下たちに任せるべき仕事だが、臣下たちを逃がしてしまった今、イヴァン以外にそれが出来る者がいなかったからだ。
城外に残っていた者たちの大半は、身分も何もない平民で、国王と直接、会話を交わせるような身分ではなかったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
一刻も早く城から出ていくんだ、と説得するイヴァンの言葉に、城内に残っていた大半の者たちは、国王陛下のご命令だからと素直に従ったが、最後まで城に残ると言い張った頑固な者たちを説得して逃がすのは、一苦労だった。
結局、その者たちを王の命令だからと、強引に城の外へと逃がしたのが、つい先ほどのこと。
あとは、イヴァンに出来るのは、城から逃げた者たちが無事に生き延びてくれることを祈ることぐらいだ。
国王軍と革命軍の衝突によって、これ以上、ローズティアの同国の民同士で血が流れるのを防ぐために、国王であるイヴァンは、国王軍を降伏させ、戦を終わらせる道を選んだ。
それが、革命の成功を意味し、自分が玉座から追われるということだとわかってはいたが、彼の心に後悔はなかった。
正直、この先に待ち受ける自分の運命を思うと、イヴァンは王の地位も何もかも捨てて、どこか遠く逃げ出したいほど恐ろしい。
革命軍に捕らえられた王は、形ばかりの裁判の末に、民衆から怒声と罵声と石を投げつけられながら、処刑台へと上がることになるのだろうか?……それを考えると、イヴァンは体にわきあがる震えを、うまく抑えることが出来ない。
逃げたい。
逃げてしまいたい。
誰も知らない、どこか遠くへ……
年若い王にとって、それは当然の感情だった。
彼と同じ立場に立たされれば、大概の者は、イヴァンと同じ感情を抱くだろう。
腐敗してしまった王国、どこまでも歪んでしまった玉座、そんな王国を憎み、愚かで無能な王を倒せっ!と革命を叫ぶ民衆……それら全てを一人で背負うのは、たとえ王といえども重すぎる。
いくら覚悟を決めていても、イヴァンが逃げてしまいたいと思うのは、無理もないことだ。
まだ年若く、妻や子もいないどころか、いまだ誰かに恋もしたこともなく、時代の波に翻弄されながら、ただ王であることを義務づけられ生きてきたイヴァンにとって、運命は余りにも過酷だった。だが、それでも逃げることは許されないのだと、彼は知っている。
なぜなら、イヴァンは王だからだ。
国を愛し民を愛し、国を守るべき王が、己の国を捨てることなどあってはならない。
この王城に、誰もいなくなった今でも、イヴァンはローズティア王国の王なのだから。
そう、たとえ、この城を王を守るものが誰もいなくなっても――
「……陛下」
幼い頃から聞き慣れた声に、イヴァンは顔を上げて、そこに立つ魔女の名を呼んだ。
「フィアナ……」
魔女が、真紅の瞳でこちらを見ていた。
ああ、そうだ。彼女がいる限り、この王城を守る者が、誰もいなくなることはないのだと、彼は思い直した。
なぜなら、ローズティアの王城には、魔女がいるのだから。
王であるイヴァンよりも、遙かに長い時を王城で過ごし、六百年もの間、この王国の歴史を見守り続けた美しい魔女が。
そんな魔女が、王城を……王国を捨てることはあり得ないと、イヴァンは知っている。
フィアナは王国の魔女であり、歴代のどんな王よりも深く、このローズティアの歴史を見守り続けてきた者なのだから。
「……本当にこれで良いのですか?イヴァン陛下」
その時、ふいにフィアナが唇を開いた。
魔女の表情には深い憂いと、わずかな迷いがある。
イヴァンにとって、フィアナは幼い頃から母のような姉のような存在ではあったが、そんなフィアナの表情は、彼が一度も見たことのないものだった。
――本当にこれで良いのですか?イヴァン陛下。
その問いかけの意図がわからず、「え……」と首をかしげたイヴァンに、魔女は真摯な声で続ける。
紅い宝石のような瞳が、深い愛情と憐憫を宿して、革命の贄になろうとする王を見つめていた。
「この国が……ローズティアが、このように変わってしまったのは、貴方の責任ではありません。イヴァン陛下……ですから、貴方だけが革命によって罰せられることも、たった一人で民衆の怒りを受ける必要も、ないのではないのですか?貴方は決して、悪い王ではなかった……貴方は逃げていい。きっと許される。私は、そう思います」
それは、魔女にとっての真実だった。
貴方は逃げていい。イヴァン陛下……
それを口にすることは、王国の魔女としての役目には反していると、フィアナは思う。
王は国を守り、国と民と共に生きるもの。
それが、たとえ革命が起きたとしても、国を捨てて逃げるなど、本来ならば許されることではない。
しかし、それを誰よりも理解していながらも、魔女はイヴァンに「貴方は逃げてもいい」のだと、そう言わずにはいられなかった。
イヴァンの、ようやく少年の域を脱したばかりの、未だ幼さの残る顔つきを見ていると、この革命で最後の王として命を散らすのは、哀れだと思わずにはいられない。
このローズティアが歪み、腐敗の王国と呼ばれるようになったのは、イヴァンの責任ではなく、このように革命が起きてしまったのも、王である彼だけの責任ではないだろうに……。
「もう、いいんだよ。フィアナ」
しかし、貴方は逃げてもいいのだという魔女の言葉に、王は――イヴァンは「もう、いいんだよ」と静かな声で言うと、首を横に振った。
フィアナの気持ちは、痛いほど伝わった。
おそらく、イヴァンが心の底では恐怖に震えていることを、魔女は察しているのだろう。
貴方のせいではない。逃げていい。
その言葉に心を動かされなかったと、この王城から逃げてしまいたいと思わなかったといったら嘘になると、イヴァンは思う。
生きて欲しいというフィアナの願いも、痛いほど伝わった。だが、それでも……王である彼は、その言葉に従うわけにはいかないのだ。絶対に。
「僕は逃げないよ。フィアナ。なぜなら、僕は……」
イヴァンはふっと穏やかに微笑むと、堂々とした、迷いのない声で言った。
「――このローズティアの王なのだから」
王は逃げない。
逃げてはいけない。
その頭上に“王冠”を抱く者は、逃げてはいけない。それが、王というものなのだから。
「イヴァン陛下……」
フィアナは唇を開いて、何か言いかけたものの、結局、何も言わなかった。
王の決意を覆すことなど出来ないと、理解しているのだろう。
そんな魔女に向かって、イヴァンは小さく微笑みかけると、最後に頼みがあるんだと声をかけた。
「フィアナ……最後に、頼みたいことがあるんだ」
「頼み?」
「そう」
首をかしげるフィアナに、イヴァンはうなずくと、己の頭上に輝くローズティアの王である証――かぶっていた王冠を、自らの手でおろす。
そうして、その王冠を、フィアナに手渡した。
「イヴァン陛下……何を……」
王冠を渡されて、困惑する魔女に、イヴァンは語りかけた。
「僕はもう、この部屋を出る。最後まで、王としての役目を果たさなければならないから……だけど、その前に、貴女にこのローズティアの“王冠”を託したいんだ。フィアナ……この王国の歴史を、王を見守り続けてきた、貴女に」
それは、イヴァンの真実の想いだった。
六百年もの長い歳月を、このローズティア王国と、王と共に生きてきた魔女。
自分が“王冠”を託すのに、これ以上に、相応しい相手はいないと心から思う。
「……」
そんな王の言葉を、魔女は胸に王冠を抱いたまま、黙って聞いていた。
「僕は、民に慕われる善き王にはなれなかった。だけど、この王国を、ローズティアを幸福にしたかった気持ちは、嘘じゃない……だから、貴女に“王冠”を託すよ。フィアナ」
真摯な声で、祈るように、イヴァンは続けた。
自分は、善き王にはなれなかった。だが、それでも……
「この“王冠”はこの国、ローズティアそのものだ。だから、どうか民を幸福にできる者に、真の王に相応しい者に渡してほしい。革命軍の者でも、そうでなくても、この国を幸福にできる者に“王冠”を……それが、僕の頼みだ。フィアナ」
引き受けてくれる?というイヴァンの問いに、フィアナは胸の王冠を守るように抱きしめて、「……はい」とうなずいた。
うなずくことしか出来なかった。
「ありがとう」
フィアナの返事に、イヴァンは安心したように笑って、優しい声で言った。
「ありがとう。フィアナ……ずっと王のそばにいてくれて、この王国を見守ってくれて、本当にありがとう……それから、さようなら」
それだけ言うと、イヴァンは魔女に背を向けて扉の方に向かい、二度と後ろを振り返ることはなかった。扉に手をかけ、イヴァンは王としての役目を全うするために、外へ出ていく。
扉が閉まる寸前、そんなイヴァンの背中に向かって、フィアナは別れの言葉を告げた。
「さようなら、イヴァン陛下……貴方は、王に相応しい御方でした」
返事はなかった。
そうして、静かに扉は閉められて、魔女は一人、その場に残された。
……それから、どれほどの時が流れただろうか。
誰もいなくなった城内の部屋で、フィアナは――最後の王・イヴァンより“王冠”を託された魔女は、祈るように瞼を閉じて、静かにその時を待っていた。
その魔女の腕には、大切なものを守るように、黄金と宝石の輝く、ローズティアの王冠が抱かれている。
イヴァンが立ち去ってから、どれほどの時が流れたのか、フィアナにもわからない。
短いようにも、また逆に永遠のように長くも感じられる時間だった。
革命の成就は間近だというのに、王城の中は奇妙な静けさに満ちており、人の話し声はおろか、物音ひとつしない。
城内にいた大勢の人々は、王の命令に従って、皆、もう城内から去ったのだろうか。
ひどく静かだった。
まるで、時が止まってしまったかのように、城内は不思議な静寂に満ちている。
しかし、そのどこまでも穏やかな時間は、ギィという扉を開ける音によって崩された。
フィアナはゆっくりと閉じていた瞼をあげると、その真紅の瞳で、開けられた扉の方を見る。
扉を開け、部屋の中に入ってきたのは、まばゆい黄金の髪の青年だった。
今、こうして城内に入ってきたということは、おそらく革命軍の者だろう。
そう考えたフィアナは、腕に王冠を抱いたまま、その黄金の髪の青年に声をかけた。
「貴方は?革命軍の者ですか?」
フィアナに声をかけられた青年は、一瞬、戸惑うような怪訝な表情を浮かべた後、蒼い瞳を彼女の方に向けて、凛とした声で逆に問い返した。
「そうだが……貴女は誰だ?なぜ、こんな場所にいる?」
革命軍の者だという青年のその問いかけは、至極、当然のものではあった。
真紅のドレスを身にまとい、胸元には蒼華石の首飾りを身につけた、まるで人形のように美しい少女。
そんな美貌の魔女の姿は、何も知らない者の目には、ひどく奇異に映ったことだろう。
身なりからして、城内で働いていた風ではない。
しかし、国王イヴァンには、王妃や王女……また姉姫や妹姫もいないはずだ。
この娘は何者だろうと、その青年が警戒心をあらわにするのも、当たり前のことだろう。
貴女は誰だという、その青年の問いかけに、フィアナは答えなかった。……いや、答えられなかった。
その黄金の髪の青年を、正面から見つめた魔女は、驚いたように目を丸くして、震える声で言った。
「貴方は……」
輝くような黄金の髪に、碧玉の、海よりも深く、空よりも透き通った瞳――
その青年の容姿は、あの方と……レオハルト殿下と、まるで血を分けた兄弟のように、よく似ていた。
「レオハルト殿下……」
しかし、レオハルト殿下……というフィアナの呟きに、その黄金の髪をした革命軍の青年は、怪訝そうに眉を寄せた。
海のような空のような、青年の蒼い瞳が、射抜くような鋭さで、魔女を見つめる。
そうして、彼は言った。
「レオハルト?……人違いじゃないか、俺の名はレオンだ」
「……レオン」
「そうだ」
うなずいた青年――レオンの顔を、フィアナは不思議な気持ちで見つめる。
見れば見るほど、その革命軍だと名乗った青年……レオンの容姿、特に髪や瞳の色は、レオハルト殿下と鏡に写したように似ていた。あれから六百年の歳月が流れていても、血の繋がりを感じずにはいられないほどに。
しかし、そんなはずはないと、フィアナは首を横に振りかけた。
このレオンという革命軍の青年が、ローズティア王家の、レオハルト殿下の血を引いているはずがないと……。
しかし、そうして首を横に振りかけた魔女の瞳に、その黄金の髪の青年――レオンが腰にさした短剣が映った。
その短剣を見たフィアナは、思わず「それは……」と声をあげる。
「それは……」
鞘に蒼い宝石がはめ込まれた、その美しい細工の短剣は、魔女にとって見覚えのあるものだった。
その短剣は、今から二十年近く前、先代の王――今は亡きグリフィスの側室であったレイラを、牢獄から逃がした際に、いざという身を守れるようにと彼女に渡したものだった。
あの時のことは、今でも忘れ難い記憶として、魔女の心に刻まれている。
しかし――
「どうして貴方が、その短剣を……」
どうして貴方が、その短剣を持っているのか。そうレオンに問いかけようとして、フィアナはその可能性に気がついた。
もしや、この青年は……と。
牢獄から逃がしたあの時、レイラはすでにグリフィス陛下の御子を、その身に宿していた。
フィアナが手助けし、牢獄から逃がした後、レイラと……その腹の子の行方は、ようとして知れなかった。
あの日から、二十年近い歳月が流れたが、あれからレイラが生き延びることが出来たのか、またグリフィスとの間の子であるその子が無事に生まれることが出来たのか、王城の魔女に知る術はなかった。
生きていて欲しいとは願ったが、腐敗の王国と呼ばれるようになったこの国で、王の血を引くその子が無事に生まれ、そして健やかに成長するという保証はどこにもなかったからだ。だが、もし、あの時のレイラの子が無事に生まれ、成長していたとしたら……
「貴方の……」
フィアナは伏せていた顔を上げると、レオンに尋ねる。
よく見てみれば、その青年の顔つきにはどことなく、レイラの……あの幸薄く、運命に翻弄された少女の面影があった。
「貴方の……貴方のお母様の名は、レイラというのではないですか?」
フィアナの言葉に、レオンは目を見開いて、驚いたように言う。
「そうだが……どうして、貴女が母の名を知っている?貴女は何者だ?」
青年の蒼い瞳には、純粋な驚きが宿っていた。
「そうなのですね。貴方があの時の、レイラのお腹にいた……」
立派になられましたね、とフィアナは、青年になったレオンに向かって、穏やかに微笑みかける。
あの時の運命に翻弄された哀れな子が、無事に育ち、こうして立派な青年となって彼女の前にいる。
それは、グリフィスやレイラの悲劇を防げなかったことを、あの日からずっと後悔し続けてきたフィアナにとっては、小さな救いともいえるものだった。
しかし、そのフィアナの微笑みは、長くは続かない。
ああ……運命というものは時として、ひどく皮肉なものだと、魔女は思わずにいられなかった。
レオン。
その名には、聞き覚えがあった。
革命軍を率いて、国王軍に勝利した英雄の名……その黄金の髪の青年の名を、レオンというのだと。
運命というのは、時折、下手な戯曲よりも余程、劇的なものだとフィアナは思う。
あの時のグリフィス陛下とレイラの子が、イヴァンの異母兄弟である青年が、二十年もの歳月を経て、こうして王城に戻って来るとは……革命の“英雄”として!
「……そろそろ教えてもらえないか?貴女は誰なんだ?」
一向に己の素性を語ろうとしないフィアナに、レオンは諦めることなく、再度、問いかける。
そんな彼の蒼い瞳を見つめるうちに、魔女はこれも運命ならば受け入れようと、不思議と穏やかな心境で思った。
レオンがどうして、革命の英雄となったのか、それはわからない。だが、フィアナが王国の魔女であることを望んだのがレオハルト殿下であるならば、こうして王国の終焉の時、終わりを告げに来るのもまた彼の血を引く者であったのは、運命の必然であるのかもしれないと……。だから、魔女はその腕に王冠を抱いたまま、レオンの名を呼んだ。
「レオン殿……いいえ、レオン……」
レオン殿下と呼びかけかけて、それは革命の英雄である青年に相応しくないと思い直し、レオンと名を呼ぶ。
そして、イヴァンより“王冠”を託された魔女は、その役目を果たそうと静かな、だが凛とした声で言った。
「――私の名は、フィアナ=ローズ。このローズティア王国の魔女です……そして、今は国王陛下より、王冠の守護を任された者でもあります」
そんな魔女の言葉に、レオンは意味がわからないというように、首をかしげる。
「……魔女?王冠の守護を任された者?」
「ええ」
フィアナはうなずくと、そっと腕を伸ばし、胸に抱いた王冠をレオンに見せた。
イヴァンより、魔女に託された“王冠”――それは、ローズティアの国王たる証であり、国の象徴であり、この王国そのものでもある。
革命により、玉座を追われたイヴァンは、最後にこう望んだ。「この国を、そして、民を幸福にできる者に“王冠”を……どうか真の王に“王冠”を」と。
自分は、民を守る善き王とはなれなかった。だが、それでも、どうかローズティア王国に幸福を……。
この王国の民を幸せにしてくれる者に、国を守れる者に、どうか真の王になりえる者に“王冠”を託して欲しいと、イヴァンは魔女に望んだ。それが、真に国を幸福にしてくれる者ならば、たとえ革命軍の者でも構わないからと。
王の最後の願いを、凡愚の王と呼ばれながらも最後まで優しくあったあの青年の望みを、無にすることなどできない。
そう心に決めたフィアナは、革命の英雄である青年に正面から向き合うと、王冠を抱きながら言う。
「レオン……貴方に、王の最後の望みを伝えましょう」
そうして、魔女は守るように王冠を抱きながら、
「この国を、そして、民を幸福にできる者に“王冠”を……そうイヴァン陛下はおっしゃいました。どうか真の王に“王冠”を、と。貴方に、その覚悟はありますか?レイラの子よ……いいえ、レオン」
と、革命の英雄である青年に、最後の王の言葉を告げた。
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