桜花あやかし語り

師走、その警官、奇異な店に迷い込むとのこと[1]

 帝都・桜花――


 明化元年、東の小国と言われた彼の地にも、西欧・近代化の波が押し寄せようとしていた。
 西の将軍の治めし都・桔梗が、東の帝の軍勢によって滅ぼされて、およそ二百年余り。
 将軍に仕えていた武士たちが、剣を捨て、東の帝に恭順を誓ってより、同等の歳月が流れようとしている。
 当時の帝が異人に国を蹂躙されることを恐れ、百年以上も他国との交易を閉ざしていたものの、それも、数十年前までの話である。
 先代の帝が異国文化に興味を示し、積極的に西洋の学問を学んだのみならず、一粒種である東宮を、わざわざ西洋諸国へ留学させた。
 ここで、当時の東宮、当代の帝が西洋文化を好まなければ、話はそこで終わっただろう。
 しかし、幼いころより神童で知られた東宮は、異国の言語を学び、西洋文化も吸収し、なおかつ抜かりなく諸外国の情報も手土産にしつつ、数年の留学生活を終えて、意気揚々と帰国した。
 帝、東宮が外国贔屓だったために、東の果てで独自の文化を築いてきた国が、西欧化の波に流されたのは、ある意味、自然なことであっただろう。
 文化も人もそのほかも、古きものはじょじょに姿を消し、新しい時代の波に飲み込まれていく――狭間の時代と、後の人々は語る。


 舞台は、帝都・桜花。
 寒月の木枯らしが吹き荒れる中、この物語は幕を開ける。
 

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